初めて精神科に行った話。

人生で初めて精神科に行って来た。少なくとも身体は健康な方だから、大学に入って一人暮らしを始めて自費で病院に行くのは二度目で、2週間前に予約を入れて、本当はその時行きたかったのだが、普通精神科は当日予約で初診に当たれる所ではない。らしい。

 

大学に入ってからは一向に気分が晴れず、心から何かを楽しめず、不安で、常にイライラしており、人が嫌いで、頭もうまく働かず、もしかしたら今度こそ本当に、と思った。

 

兆候は高校時代からあったが、とても親に精神科にかかりたいとは言い出せず、ずるずると人にラインをしたり2ちゃんねるやTwitterでごちゃごちゃ雑談して誤魔化しながら5年くらい過ごして来た。自分は鬱病だと思いたかった。そう思うことで、自分が単に甘ちゃんで子供でわがままであるということから目を背けたかった。

 

受付を済ませ、高価そうなティーカップや皿などの西洋アンティークの入った戸棚とヨーロピアンな椅子の白色蛍光灯の待合室で一人端の椅子に座り携帯をいじること五分、白衣を着た、非常に声の小さい男が奥の扉から出、「○○さま、どうぞ」と言う。患者に「様」なんて、と思いながら、好奇心混じりの思いで診察室に向かう。

 

入った診察室は、まずアンティークの戸棚、医師の机、対面する椅子、医師の後ろに小さな本棚、白色蛍光灯、患者が座る椅子の後ろには落ち着きのない変な間のある部屋だ。

 

猫撫で声の医師は、ゆっくり、小さい声で、私から色々と聞き出す。大学には行けているのか、アルバイトは、趣味は、睡眠は、食事は。20分くらい息の詰まるような会話が繰り返されただろうか。

 

彼は自分の遅い筆で書いたメモを私に見せて、「気分の落ち込みは気になりますが、大学やアルバイトには、なんとか通っていて、最近、このー、アニメを見て、楽しかった、ということ、ここの辺りは、鬱病になると出来なくなります、鬱病の心配はなさらなくて結構ですね、しかし、不眠が、気になりますので、睡眠導入剤を、処方します。」たどたどしく語った後、彼は後ろの本棚から水色のカバーの本を取り出し、私に処方するマイスリーの説明を同じ口調で行う。こいつは、本当にこれで、この口調でいままで精神科医をやってきたのか、と思ったが、最後に「アルバイトは、シフトを減らすか、辞めるかしたほうが、いいと思われます、辞めたら、快方に向かうと思います」と言われ、思わず苦笑した。

 

精神科などというものは、所詮はネット上の「鬱病診断」みたいなものとやっていることは変わらない。タイプ別に人を当てはめて、病名と言う名のレッテルを貼って、薬を出して、彼を薬漬けにしてしまえば彼らの立派な顧客になる。簡単に言えば、虚学である。商売!患者の心に寄り添う、などと考える精神科医はごく一部だ。人は、語り得ないことを抱える生き物で、自分が20分だかなんだかでざっと聞いた話では彼をはかることは到底不可能である。アレは、嘘だ。帰依してはいけない新興宗教のようなものだ。幻聴が聞こえるとか、吐き気がするとか、そういう段階にまだ立っていないものにとっては、嘘でしかない。

 

病名のつかなかった甘ったれの私は、三千円也を支払い、処方箋を持って、いつもと変わらない憂鬱な街に出た。少し安心していた。本当に俺は単に甘ったれていて優柔不断なだけの子供だったんだ、とわかったから。

 

#メンタルヘルス #精神科 #アダルトチルドレン